近況報告(2021/9/15)

涼しくなりました。『EV』イブ、今日書店に並びます。

 

「だったら、ハイブリッド車なんか捨ててEVに全力投球すればいい。しかし、日本企業と政府にはそれができない」

 デビッドソンの言葉に、瀬戸崎は苦しそうに息を吐いた。

「やはり、エンジンが捨てきれないのか」

「この国には、過去に生きている者が多すぎる」

「GAFAが生まれない国だ」

「今回は後がない。この戦争に敗れれば、日本は立ち上がるチャンスを失う」

 瀬戸崎はあえて戦争という言葉を使った。マスコミに知られれば、少なからず波紋を引き起こす言葉だ。しかしこれは、明らかに戦争だ。日本が絶対に負けられない戦争なのだ。

「そうだな。自動車産業は日本の屋台骨だ。その骨格がボロボロになっている」

「しかし、悪いのは中国ではない。新しい時代と世界に舵を切り切れなかった日本の責任だ」

「きみは、エンジン車を捨てて、EVに全面切り替えすべきだと思っているのか」

「フィルムカメラは生き残っているか。レコード、カセットテープはどうだ。一部のマニアの趣味としてはいいが、過去の遺産だ。復活はあり得るだろうか」

 瀬戸崎がデビッドソンに視線を向けると、デビッドソンは首を横に振った。

「自動車は、中国にとって捨てるものも失うものもない。ゼロからの出発だ。これほど大胆なことができる事業はない」

 瀬戸崎の声が大きくなった。自分でもかなり酔っているのが分かる。

「ステラの最大の強みを教えてやろうか、ケイ」

 デビッドソンの声も乱れている。

「歴史がないことだ。捨てるものも、しがらみもない。前に進むのみだ。きみが言った言葉だ」

 デビッドソンが歌うように節を付けて言う。その声は強さに溢れ、清々しさに満ちている。『EV』288P

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