涼しくなりました。『EV』イブ、今日書店に並びます。
「だったら、ハイブリッド車なんか捨ててEVに全力投球すればいい。しかし、日本企業と政府にはそれができない」
デビッドソンの言葉に、瀬戸崎は苦しそうに息を吐いた。
「やはり、エンジンが捨てきれないのか」
「この国には、過去に生きている者が多すぎる」
「GAFAが生まれない国だ」
「今回は後がない。この戦争に敗れれば、日本は立ち上がるチャンスを失う」
瀬戸崎はあえて戦争という言葉を使った。マスコミに知られれば、少なからず波紋を引き起こす言葉だ。しかしこれは、明らかに戦争だ。日本が絶対に負けられない戦争なのだ。
「そうだな。自動車産業は日本の屋台骨だ。その骨格がボロボロになっている」
「しかし、悪いのは中国ではない。新しい時代と世界に舵を切り切れなかった日本の責任だ」
「きみは、エンジン車を捨てて、EVに全面切り替えすべきだと思っているのか」
「フィルムカメラは生き残っているか。レコード、カセットテープはどうだ。一部のマニアの趣味としてはいいが、過去の遺産だ。復活はあり得るだろうか」
瀬戸崎がデビッドソンに視線を向けると、デビッドソンは首を横に振った。
「自動車は、中国にとって捨てるものも失うものもない。ゼロからの出発だ。これほど大胆なことができる事業はない」
瀬戸崎の声が大きくなった。自分でもかなり酔っているのが分かる。
「ステラの最大の強みを教えてやろうか、ケイ」
デビッドソンの声も乱れている。
「歴史がないことだ。捨てるものも、しがらみもない。前に進むのみだ。きみが言った言葉だ」
デビッドソンが歌うように節を付けて言う。その声は強さに溢れ、清々しさに満ちている。『EV』288P